2012年12月9日日曜日

ナガタン

 子供のころ、私の育った家では家のもの誰もが、台所でつかう包丁のことを「ナガタン」と言っていた。これは刺身包丁とか出刃包丁はそのまま「サシミボウチョウ、デバボウチョウ」と言っていたのだが、先の尖っていない長方形の形の包丁のことをこう呼んでいた。
 大きくなって世の中へ出た私は、この「ナガタン」という呼び方を聞いたことがなく、もしかしたらこれは私の育った田舎の地域限定の方言のようなものなのか、と思っていた。どんな字を書くのかも分からなかった。それでなんとなくナガタンと言うのが恥ずかしい気がして、みんなが言っているように「包丁」と言っていた。
ところが、昨日読んだ歌集のなかに
「包丁を菜刀(ながたな)と言いし亡き母の・・・」
 という歌があった。私ははっと気づいた。「ナガタン」は「菜刀」のことだったのだ。菜刀(ながたな)が、何度も言っているうちに「ナガタン」になっていたのだと。決して地域限定の方言などでなく、むしろ雅やかな呼び方だったのである。これからは自信を持ってはっきりと「ナガタン」と言おうと思う。

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